干し柿と言えば、日本伝統の保存食ですが、見方を変えれば一種のドライフルーツ。ワインに合わないはずがありません。特に最近では、干し柿でバターをミルフィーユ状にサンドしたオシャレなスイーツが流行っていますので、ワインに合わせたいと思っている方は多いのではないでしょうか。
ざっくり言えば、干し柿に合わせたいワインは白の甘口です。干し柿は甘味・旨味が凝縮していますので、甘口の中でもなるべく甘味が濃厚なタイプがよいでしょう。では具体的にどんなワインがよいか?ここでは、干し柿に合うワインをご紹介します。
ソーテルヌ
干し柿に合うワインとしてまずおすすめしたいのは、貴腐ワインです。貴腐ワインはどの産地のものもよく合いますが、特に合うのがソーテルヌです。貴腐ワインの香りは、ハチミツ、黄桃、ドライアプリコットなどの香りに例えられることが多いですが、ソーテルヌは特に「ドライアプリコット」感が強く、干し柿に通じるところがあります。これは、糖度が高くまろやかなセミヨンの特徴によるところが大きいでしょう。
ちなみに、フレンチでは、フォワグラのポワレに、角切りの柿をソテーしたものや、柿のソースが添えられることがよくあります。実は、貴腐ワインとフォワグラの相性の良さは定番とされており、この一皿も当然貴腐ワインを合わせることが想定されているでしょう。そこで、仮に貴腐ワインがこの皿の柿と合わなかったら、おかしなことになってしまいます。こんなところからも、柿と貴腐ワインの相性は裏付けられていると言えるのではないでしょうか。
ピノグリ・ヴァンダンジュ・タルディヴ
「ヴァンダンジュ・タルディヴ」とは、「遅摘み」を意味する、主にフランスのアルザス地方で認められている甘口ワインのラベル表記です。収穫を遅くすることによってブドウの糖度は極限まで高まり、凝縮感のある甘口に仕上がるのです。一部貴腐ブドウを含んでいるため、味わいは貴腐ワインによく似ています。
ヴァンダンジュ・タルディヴは、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、リースリング、ミュスカの4品種のみに認められていますが、この中で最もおすすめしたいのはピノ・グリです。はちみつ、熟したトロピカルフルーツ、アプリコット、マンゴーなどの香りがあり、干し柿の風味と多くの接点があります。また、ピノ・グリには果皮に由来するほのかな渋みがありますが、柿は元々渋みがあり、渋みとの親和性は高いフルーツです。渋抜きによって渋みが抜けた干し柿に、ほんの少し渋みを戻してやるような効果があり、味に深みが生まれます。
ドイツの甘口リースリング
ここまで、ソーテルヌ、ヴァンダンジュ・タルディヴと、こってり甘口のワインを紹介してきました。冒頭で述べたように、干し柿の濃厚な甘味と釣り合わせるためには、それなりに甘味の強い甘口を合わせるのが定石です。しかし、中には「あまりに甘いワインはちょっと…」という方もいるかもしれません。そこで、そんな方におすすめしたいのがドイツの甘口リースリングです。すでに述べたように、リースリングの甘口には、アルザスのヴァンダンジュ・タルディヴもありますが、ここではあえてドイツのリースリングをおすすめします。
ポイントは、ドイツの甘口ワインは甘さを選べるということ。甘くない順に「カビネット」「シュペートレーゼ」「アウスレーゼ」「ベーレンアウスレーゼ」「アイスワイン」「トロッケンベーレンアウスレーゼ」と等級があります。甘口が苦手な方は、まずはカビネットかシュペートレーゼを試してみてはいかがでしょうか。
また、リースリングには、品種の個性として豊かな酸味があり、強い甘口であってもその裏にしっかりと酸味が感じられ、決して甘ったるくありません。さらに言うと、リースリングは柑橘、リンゴ、洋梨などの香りがあるのも特徴で、柿とはちょっと方向性が違いますが、それはそれで、柿にない甘味と酸味を補うと考えることもできます。これもマリアージュの一つの方法論です。
ホワイト・ポート
ここからは少し変化球です。ポルトガルには甘口ワイン「ポート」があります。ポートは赤が有名ですが、実は白の「ホワイト・ポート」もあり、トロピカルフルーツ、ハチミツ、ナッツ、バニラなどの複雑な香りが魅惑的。干し柿にとてもよく合います。
ちなみに、ポートは、普通のワインの工程でブランデーを加えることによってアルコール発酵を止め、ブドウの甘味を残して甘口に仕上げたワインです。このポートに加えたスピリッツが、ワインのボリューム感や深みを増すのに一役買っており、これも干し柿の濃厚な味わいと釣り合う要素になっています。ただし、ポートはスピリッツを加えているため、アルコール度数が高く、一般的には19度以上あるので飲みすぎにはご注意ください。一方で、そのアルコールの高さゆえに劣化しにくく、普通のワインに比べて長期保存が可能です。未体験の方は一度試してみてはいかがでしょうか。
マデイラ
変化球としてもう一つおすすめしたいのが、同じくポルトガルの「マデイラ」です。これは干し柿に合わせる他のワインにも言えることですが、干し柿は熟成によって独特の旨味が出ていますので、ワインもなるべく熟成したものの方が、干し柿には合いやすいと言えます。マデイラは、ブランデーを加えてアルコール発酵を止める点はポートワインと同じですが、加熱することによってあえて酸化熟成させるというところが大きな特徴です。これによって、ドライフルーツ、ヘーゼルナッツ、焦がしキャラメルのような独特の香りが生まれ、干し柿と素晴らしいマリアージュを見せます。
また、マデイラには白も赤もあり、味わいも辛口~甘口までさまざま。好みによって選ぶことができるのも魅力です。干し柿に合わせるなら、白の甘口(ブアル=中甘口、マルヴァジア[マルムジー]=甘口)がおすすめですが、あえてずらして、自分なりのマリアージュを見つけてみるのも楽しいものです。どのタイプのマデイラも、チーズ全般や、風味の強い料理とよく合います。是非マデイラといろいろな料理のマリアージュを楽しんでみてください。